花火師とガラス職人

 

塾の夏期講習の帰りに

Fと 花火を観に土手まで行った

屋台でラムネを買って

二人で土手に座って 飲みながら眺めた

花火はめちゃくちゃすごくて

歓声やどよめきが しょっちゅうあがった

花火師って いい仕事だよな

Fが ポツリと言った

日本中 あっちこっちの祭に行ってさ

何万人も しかも誰でも

こんなに喜ばせることができるんだよ

子どもも じいさんも

全然 金持ってないヤツも

全然 日本語わかんない外国人も

お笑い芸人みたいにすべることも

一発屋で終わることもないし

メディアに露出する必要もない

やれば 確実に喜んでもらえる

金をとらずに 何万人も喜ばせるなんて

そんな仕事 めったにないよな

どうしたら なれんのかな

ひときわでかい花火があがって

見上げるFの顔を赤く照らした

今はただ 少しでも偏差値高い高校に

受かることしか考えてない僕には

花火師という「仕事」に思いをはせるFが

なんだか少し 大人びて見えた

もうすぐ 夏休みが終わる

中学最後の 夏が終わる

十月にはもう 受験高を決めなければ

最後の花火 スターマインが終わった

ビンの底に残ったラムネを飲みほしたら

中のビー玉がカラリと鳴った

小学生の頃 このビー玉が欲しくて

瓶を割って 親に怒られたことを思いだした

小学生の頃

僕は やたらとガラスが好きだった

ガラスという透明な素材に惹かれていた

熱で溶けたガラスをシャボン玉みたいに

ふくらませるガラス職人をテレビで見て

こんな仕事があるのかと

身体中がしびれるほど興奮した

でも いつのまにか

そんなことはすっかり忘れていた

あの頃より 今のほうが

将来 どんな仕事がしたいか

もっと 考えているはずなのに