俺があいつをいじめる理由

 

あいつをいじめる理由なんて 特にないよ

しいていうなら 人間の性(さが)だよ

人間て 本能的に自分と他人を比べてて

自分より「下」がいることに安心するんだよ

「あいつより俺のほうが幸せ」とか

「あいつに比べたら、俺はまだマシ」って思えて

それで前向きになれるんだよ

昔は そういう人間の性に基づいて

アパルトヘイトとかカースト制度とか

士農工商とか 貴族と平民とか

階級つくって 差別しあうことで

社会のバランス 保ってたんだよ

それを法律で「平等」にしたところで

うまくいくわけないだろって

だから 結局つくるんだよ

自分より「下」の存在を

俺は 先輩にいじめられてる

でも 同学年のあいつをいじめることで

なんとか精神のバランスを保ってる

俺にだっていじめる存在がいることが

俺よりも もっと惨めなやつがいることが

俺の救いになってるんだよ

俺の惨めさが薄まるんだよ

だから あいつが不登校になって気づいた

俺はつまるところ あいつをいじめながら

あいつの存在に すがってたんだ

必死であいつに すがりついてたんだ

あいつにも いじめる存在がいるんだろうか

あいつにも 必死ですがりつく存在がいるんだろうか

いなければ あいつは俺より

「強い」ことになるんだろうか

俺はあいつより 「弱い」ことになるんだろうか