テツガクってやつ

 

「マユってさ、なんか最近、いっつもほかのこと考えてない?」

学校からの帰り道 リサが歩きながら不機嫌に言った

「あたしといても、『自分の世界』みたいな。べつにいいけどさ」

気まずい雰囲気のまま しばらく無言で歩いた

「…ごめん」

「べつに謝ってくれなくていいけど」

明らかに怒っているリサに 勇気を出して言った

「リサ」

「なに」

「…こんなこと話したら、気味悪いってドン引きされそうだけど」

「だから、なに」

「最近、あたし、変なことばっかり考えてるんだよ」

「どんな」

「…たとえば、…前に英語で『私は生まれた』って習ったじゃん」

「うん」

「アイワズボーンって、受け身じゃん」

「うん」

「そのまま訳すと、『私は生まれてこさせられた』でしょ」

「…まぁ、そうだけど」

「実際、人間も動物も、みんな自分の意志じゃなくてさ、

無理やり、この世界に生まれてこさせられたわけでしょ」

「なにそれ」

「べつに死にたいわけじゃないけどさ。

こういうこと、ぐるぐるぐるぐる、考えちゃうの。

今こうして、生きてる自分って、いったいなに?みたいな。

こんなの、やっぱ変だよね。キモイよね。あたし、病気なのかな」

数秒後 リサは突然立ち止まって あたしをまっすぐ見て言った

「それって、テツガクってやつじゃないの?」

「テツガク?」

「そうだよ。変なおっさんが、『なぜ、生きる?』とかいうやつ」

「変なおっさんがテツガクなの?」

「ちがうよ。そういう科目ってゆーか、勉強があるんだよ」

「なにそれ。そんなの答えなんかあるわけないじゃん」

「知らないよ、そんなの。

とにかく、そうゆう科目があるんだよ。

あとでテツガクってググってみなよ」

「漢字、どんなの?」

「たしか、テツオのテツに学校のガク」

「テツオって、あの漫才バカの?」

「ちがうよ、筋肉バカのほう」

そこまでしゃべって 二人とも少し笑った

それからまた 並んで歩き出した

リサ ごめんね

ずっと 嫌な思いさせてたんだね

リサ ありがとう

ちゃんと 受けとめてくれて

リサ あたし今 考えてるよ

こういうの

トモダチっていうのかな