只見線  ~第二章~

    

独立して二年めの冬
仕事で会津に行ったとき
初めて只見線に乗った
結局 それから何度も乗った

菜の花が車窓をくすぐる春も
川の水面がまぶしい夏も
稲穂が夕陽に染まる秋も
一面が墨絵の世界になる冬も

あれから もう十五年
朝 珈琲を飲みながら
居間の壁の夫の絵を見る
水害で流される前の
第五鉄橋を渡る只見線がいる
初めてこの橋を渡ったときから
変わっていった自分を思う

人と 深く関わることを
おっくうに感じていたのに
夫と 生きてゆくことになった
雑誌の記事ばかり書いていたのに
夫の絵を眺めて暮らすうちに
詩を書かずにはいられなくなった

只見線は 変えてゆく
乗る人を 撮る人を
聴く人を 眺める人を
少しずつ ゆるやかに
内側から 変えてゆく

息を飲むほどの美しさで
遠い日の 駅のベンチに
置き忘れてきた素朴さで