伊豆急蓮台寺駅

    

十八年前 父が定年退職して
伊豆の下田に両親が移住した
最寄りの蓮台寺駅から
車で二十分の山奥に家を建てた
以来 年末年始や連休は
下田に帰省するようになった
帰省といっても親の移住先なので
故郷に戻るような郷愁はない
それでも 車窓いっぱいに海が広がる
伊豆急でのひとときが 好きだった

熱海あたりで親に電話をかけて
蓮台寺駅に着く時刻を知らせた
酒好きの父は 夕方から飲みだすので
車での迎えを頼むのに
六時を過ぎると機嫌が悪かった
そりがあわず 帰省のたびに
必ず一度は ぶつかる父との
二人だけの気まずい車内が
さらに気まずくならないよう
五時十二分着に乗ることが多かった
夕暮れの駅に降りて
ホームから下を見下ろすと
駅前に 父が停めたプリウスが見えた

おととし 父が逝って
駅からは タクシーになった
初老の運転手を後ろから見つめながら
父との気まずかった車内を思いだす

やたらと決めつけるところがあって
なにかとケチをつけるのが好きな父と
これからの数日の間に
必ず一度は ぶつかることはわかっていた
それでも 夕暮れの駅のホームから
プリウスが見えると 少しうれしかった