あなたがいる世界

  浅田志津子

あなたに出逢うまで

私は ずっと孤独だったと

かつては思っていたけれど

十五年を超える歳月を

共に過ごしていくなかで

実は そうではなかったのだと

近頃 思うようになった

めぐりあうずっと前から

遙か遠い空の下で

あなたは生きていたのだから

あなたと出逢う前だって

私は決して 孤独ではなかった

人生で最もつらかったあのときも

あの瞬間も あの時期も

あなたは 遠い空の下で生きていた

この世界は あなたがいる世界だった

あなたが 存在するこの世界に

私は 絶望する必要はなかった

そのことを 思うたびに

心の奥に 灯りがともる

たとえ 遠く離れて

それぞれ 別々の道を

生きてゆくことになったとしても

この世界が

あなたがいる世界である限り

私は 独りではない

ならば いつかあなたが旅立って

この世界が

あなたのいない世界になったら

私は 生きる意欲をなくすだろうか

いいえ 私は生き続ける

あなたが いなくなった世界を

あなたと 出逢わせてくれた世界を

あなたと共に 生きられた世界を

あなたが生きた証が 残る世界を

そしていつか 天国で再会したとき

私は 笑いながら言うだろう

ずいぶん待たせてしまったわね

あなたがいなくなったあとの世界で

こんなに長生きするなんてね

当初は 泣いてばかりいたけれど

慣れてしまえば

そんなにつらくはなかったわ

だって あなたに出逢う前より

私 つらくなかったもの

この世界のどこかで

あなたが生きていることを

あなたと出逢って

共に生きる未来が待っていることを

全く知らずに 生きていた頃よりも

私 つらくなかったもの

あれから私

けっこう幸せに暮らしてたのよ

大好きなものたちに囲まれて

あちこち 旅行も楽しんだわ

あなたがくれた髪どめやブローチをして

だから あなたに出逢う前の

あてもなく 独りでさまよっていた頃に比べたら

そんなにつらくは なかったわ

ねぇ 話したいことがいっぱいあるの

まずは座って お茶にしましょうよ

あなたにようやく再会できたら

まず最初に ふたりで長々と

お茶をするって決めてたんだから

珈琲も紅茶も ポットに入れてきたし

サンドイッチも いっぱいつくってきたわ

でも もうすぐ お夕飯なんだから

あんまり 食べ過ぎちゃだめよ