あとがき  ― 今、これを読んでくださっている方へ ―

 

 東京の片隅で独りで生きていた頃、児童書の編集・制作会社に勤務し、小中学生対象の図書館向けシリーズの企画・編集・執筆をしていた。平成十年、かねてから企画していた現役小中学生達へのインタビュー集が実現することになり、半年間、全国各地に住む中学生に実際に会って、自分、家族、友達、勉強、遊び、お金、恋、心、身体、命など、さまざまなテーマで話を聴いた。後で、彼らの口から出た言葉を活字にしながら、いろんなことを思った。
 あのとき、1対1で話しこんだ中学生ひとりひとりを、今でもよく覚えている。学歴への疑問を抱えながら、名門校めざして受験勉強していた子、クラスや部活での人間関係に疲れているぶん、家で母親にあたっていた子、地味な自分が文化祭で輝くすべを模索する子、自分のことを好きだと思っていた男子が、別の女子に告白したことを知って心臓が止まりそうになった子、それぞれがかつての自分自身に重なり、話を聴きながら、いとおしさがこみあげる瞬間もあった。昭和、平成と、どんなに時代が変わっても変わらないものがあって、それは令和の中学生だって同じだと思う。

 これは「知りたい聞きたいみんなの気持ち①~⑦」という全7巻の図書館シリーズとなってポプラ社から発行され、その後、翻訳版も出て、海外の小中学生達にも読まれることになった。私自身、このシリーズ制作に多大な影響を受け、翌年、教育・福祉関係のルポライターとして独立した。
 それから早二十年、現在中二の長女とのバトルに明け暮れながらライターを続け、詩を書いている。

 これまで、全国各地の小中学校や教育委員会、NPO、フリースクール、塾、医療機関、児童相談所、福祉施設などに取材に行き、たくさんの子ども達をはじめ、教育・福祉・医療関係者に会って話を聴いてきた。その上で、つくづく思うのは、「昔も今も、多くの人にとって中学時代はキツイ」ということだ。勉強だけでも大変なのに、クラスや部活における集団の人間関係、先輩後輩との上下関係、家族関係、教師との関係など、とにかく人間関係がキツイ。かくいう私もそうだったし、子ども達へのメッセージ集の取材で話を聴いた各界著名人の方々にも、友人にも、そうだった人が非常に多い。
 心に余裕がないぶん、意地悪さや残酷さがむきだしになりやすい時期だと思う。ほとんどの子がイジメや無視の加害者、被害者、傍観者を中学時代に経験する。長時間、集団やグループで過ごすことに疲れてしまったり、本来の自分がどんどん失われていくように感じてしまう時がある。

 でも、大変なことばかりじゃない。文化祭や体育祭、合唱コンクールなどの学校行事に心躍ることだってある。そして、美しい恋をすることも。ただ見ていただけの恋も、告白して玉砕も、恥ずかしい勘違いも、つきあうまでにはいたらなかった恋も、ふりかえれば泣けてくるほど美しい。
 これまでに出会った人達や長女とのやりとりに感化されながら、いつしか私は、中学生の立場での詩や、今、この時代を生きる中学生へのメッセージをこめた詩を書くようになった。

 ときどき、私の詩をカレンダーや「学校便り」などで読んだ見知らぬ中学生から、胸にしみいるメールが届く。なによりうれしいのは、私の詩がきっかけで「自分も詩を書いてみたくなった」というメールである。難解さの欠片もない詩を、書き続けてきてよかったと思う。
 創作活動は人生を何倍も楽しくするし、人を強くする。特に詩作は、誰でも今すぐできる、ハードルの低い創作だと思う。小説と違って短いから、飽きっぽくても根気がなくても完成しやすい。最後まで読んでもらいやすい。全文を発表しやすいし、紹介してもらえやすい。暗記しやすいから、頭の中に保存できる。歌詞と違って曲を必要としないし、曲に左右されない。
 これまで詩を書いていたおかげで、私は、どんなにつらいときでも絶望することはなかった。心のどこかで「まぁ、いっか。いつかこの経験も、詩のネタになるかもしれないし」「詩を書く上での肥やしになるだろう」。そう思うことができた(実際、本当にそうなった)。
 そういう客観性や開き直る力、不幸を活用する思考を身につけるひとつの手段として、詩作という創作活動が教育の場でもっと普及して、詩の居場所が増えていくよう、微力でも動き続けていきたい。

 令和元年、これまで中学生に向けて書いた詩を、ひとりでも多くの中学生に届けたくて一冊にまとめた。だが、今の中学生が「読む」のは紙ではなく、もっぱらネットである。あつかましいのは承知の上で、今、これを読んでくれている方に切実にお願いしたい。
 「もし、この中に一編でも、今の中学生に読んでほしいと思う詩があれば、どうぞネットで紹介して頂ければ幸いです。私への許可は不要です。打ちこむ御手間を省くため、誤字脱字を防ぐため、詩の文字データを御希望の方はHPからメール頂ければお送りします。どうぞよろしくお願いします」。                                        令和元年 十月
                                     浅田志津子

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浅田志津子

 

教育・福祉関係のルポライター・詩人
主な著書・共著に「めざせ!あこがれの仕事⑲⑳」
「知りたい聞きたいみんなの気持ち①~⑦」
「生きるタネ」「人生のスジ」(すべてポプラ社)など。
サトウハチロー記念「母の詩」全国コンクール最優秀賞・特別賞受賞。
NHK「すくすく子育て」、月刊「社会教育」などで詩を連載。
日能研模試、朗読用教材、企業カレンダー、小中学校、教育・福祉機関が
発行する印刷物等に、数多くの詩を提供している。

既刊詩集・詩画集 「最後のだっこ」「中央線的詩画集」
「線路沿いの詩」「車窓に降る詩」(すべて完売)。
鉄道風景画家の夫 松本 忠の絵と、自身の詩を組み合わせた詩画を制作。
各地にて、詩画展および、「詩の朗読と音楽の会」を随時開催。
公式HP「夕陽色の詩集」