尾行

 

学校帰りに駅前を歩いていたら

銀行に入るお母さんを見かけた

声をかけようと思ったけど

平日の 昼間のお母さんは新鮮で

しばらく 尾行することにした

銀行から出てきたお母さんは

通帳としばらくにらめっこして

まず 八百屋にむかった

あれこれ手にとったあと

少し考えこんで かぼちゃを戻して

レジでスタンプを押してもらって

持参した手さげを出した

魚屋の前で 大マジメな顔で

じっくり考えこんで

結局 アジを5枚買った

美容院の前をとおりながら

ガラスに映った自分をながめて

手で 髪をなでつけると

スーパーに入っていった

5人分の夕食の材料がはいった

大きなみっつの袋を両手にさげて

夕暮れの商店街を お母さんは歩く

ソフトクリーム屋の前で

ぱたりと立ち止まるから

買うのかなと思ったら

結局 買わずにベンチに腰かけて

ハンカチで 顔の汗をふきはじめた

また 家へと歩き始めたお母さんの

荷物が重そうだし

ミステリーは なにもなさそうだし

もう 声をかけようと思ったら

とちゅう おかしな方向にまがった

裏通りへ出たお母さんは

小さな神社の中に入っていって

がま口から お賽銭を出していれると

長々と 祈りはじめた

ようやく祈り終わると

お母さんは もう一度がま口を出して

お賽銭を 追加払いした

あたしは 尾行を打ちきりにして

ひとりで公園に行って

少し 泣いた