身長と成長

 

まだ 一四〇センチにも満たない

ランドセルの少女だった頃

特にこれといって

つらいことがあったわけでもないのに

なぜだろう あの頃の私は

いつも 漠然と 哀しかった

その哀しみは 夕暮れどきに

満ち潮のように 押しよせて

家の窓に 灯りがともる

夜になると 薄まっていった

だから あの頃の私は

夕暮れどきは いつだって

早く 早く夜になれと

祈るように 待っていたんだ

一五〇センチを過ぎる頃には

その 抽象的な哀しみは

学校の人間関係とか勉強とか

具体的な悩みによって

まぎらわされて 薄れていった

それからも 年を重ねるごとに

私の背は 伸びつづけ

うまく生きるための

要領ばかり身につけて

そのぶん 鈍くなっていった

一六〇センチの私にはもう

あの哀しみを 感じることはできない

夕暮れの原っぱで 心が破けそうで

涙をこぼしたあの子は もういない

大人になるということは

つまりは そういうことなのだろうか

それが いいことなのか悪いことなのか

今の私には よく わからないけど