夕暮れの大宮駅

  浅田志津子

  

夕暮れの大宮駅のホームで

始発電車に乗り込もうとしたら

少年が周りを蹴散らすようにして

空席に突進して どさりと座った

車内じゅうの乗客たちの

冷ややかな視線を浴びながら

少年は ふてぶてしく顔をあげて

開いたドアを じっと見ていた

そろそろ発車する頃に

赤ん坊を抱えた ほつれ髪の母親が

大きな手さげを肩にかけて

慌ただしく 乗りこんできた

「おかあさん」

少年に呼ばれた女は

疲れた顔に 弱い笑みを浮かべた

少年は立ち上がると

母親の大きな手さげを受け取って

赤ん坊を抱えた母親を座らせた

「みいちゃん、薬飲んだ?」

「飲んだ。このまま寝てくれるといいんだけど…」

発車のベルが鳴った

大きな手さげを両腕に抱えて

まだ つり革に手が届かない少年に

隣の男が 柱につかまるよう言った

少年が 柱につかまり

母親が 男に礼を言い

そして 電車が走り出した